「選挙」「精神」に続く想田和弘監督の観察映画「Peace ピース」がやっと札幌でも公開された。
あいにく上映時間は一日一回夕方のみで、初日しか観れる時がないので、仕事帰り、観に行った。
開始時間が仕事終わりと近く、始まりの「泥棒猫」の話の途中からだったけど、想田和弘監督の語り口にすぐに入り込めた。
老いてなお、採算割れの移動介護支援を続ける夫婦。その家に集まる捨て猫たち。今の日本の老老介護の実態が気負いなく描かれていく。
車椅子の方のお出かけに荷物を荷車で持ってくる年老いた両親、ひとり暮らしの足の不自由な方の靴選びに一緒になって付き合う移動支援の方。
カメラは移動介護支援を続ける夫婦に向けられ、支援事業の運営の厳しさが語られ、それでも続ける意味を映し出す。
身寄りのなく肺ガンで余命わずかと知りつつもその方を励まし続ける老夫婦の活動を追う時、ヘルパー以上に気を許す老人に安堵の顔が観られ、この老夫婦の前では身なりもちゃんしようとする「生きる気力」を感じられる。
誰にも聴いて貰えない戦時中の話をする老人は、俺の命はその時と同じと言わんばかりに、召集令状の葉書の値段一銭五厘が男の命の値段と、身の回りの世話を焼く移動支援の奥さんに話する。
その夫婦の家の前に集まる捨て猫たちは泥棒猫も仲間に引き入れ、与えられた飯を食う。
死ぬまで止めないと老人が語る煙草の「Peace」のように誰かの拠り所になりたい、そんな夫婦の観察映画。
「お爺ちゃんの願い通りにするからね」と葬儀の約束をドア越しにする奥さんがとてもシュールだったけど、今の日本の平和はこんな感じなんだろうねと、映画館を出るとハロウィン間近で待ちきれない若者たちが仮装した街を歩いていた。
今の日本の平和がずっと続きますように。暗くなった街を歩く。