トルコ映画というと1980年代に話題になったユルマズ・ギュネイ監督の作品群を思い出す。反社会的と投獄され、獄中から映画撮影の指示を出し、何本も映画を作り、1982年の「路」でカンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞。撮影後、仮出所の際に脱走してフランスで映画を仕上げたという人で国際的に注目を浴びつつも惜しくも亡命先のパリで亡くなった。
ユルマズ・ギュネイ監督の作品は何本か見ていて、最近のトルコ映画作品という事で、公開されたユスフ三部作を立て続けに観た。
予備知識なしに観た「蜂蜜」は2010年のベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞したもので、ユスフ三部作の最後の作品となるらしく、てんかんの持病を持ち、言葉を人前でうまく話せないユスフ少年が大好きなお父さんと死別する物語。語るセリフは少なく、蜂蜜取りの一家の日常を淡々と映しだしているこの映画は映像詩とも云えそうな作品。ただ、お母さんの描き方が荒く何故なんだろうと疑問に感じた。
「蜂蜜」に併せて公開された第一作「卵」第二作「ミルク」はユスフの成人期と青年期を描いた作品で、資料によると青年期を描いた「ミルク」のシナリオが出来上がった時に、大人になったユスフと子供の頃のユスフに監督が想いを馳せ、作られたものらしい。
第二作「ミルク」は青年ユスフが母と二人ミルクを売って生計を立てている日々が描かれ、詩人になる夢を持ち、作った詩を売り込みに歩くユスフ青年が母に好きな人が出来た事から、裏切られたと感じ、母と決別する物語。この時点から振り返る「蜂蜜」の母の描き方の淡泊さは何となく理解出来る。
映像的にも実験的な事が多く取り込まれ、セミフ・カプランオール監督の映像思考がかいま見えてくる。
第一作「卵」は大人になったユスフは故郷から遠く離れたイスタンブールで暮らしていて、母の死の知らせを受けて、何年ぶりかで故郷に帰り、母の遺言を実行するように言われてもいまひとつためらいが残り、かといって、無碍に故郷を離れる事も出来ずにいる。
母とのわだかまりから解放されたいユスフが次第に自分が忘れようとしていたルーツに触れる時、ユスフは子供のように泣く。
通して観て、第一作「卵」が一番好き。
ユスフ三部作それぞれ映画の中にトルコの音楽や踊りが描かれていたけど、日本映画で右翼左翼どちらも自国の伝統文化を描いた劇映画というのは観た事がなく、そういう意味でも日本は鎖国文化なんだろうなと久々のトルコ映画を観て、思いもしたのだけれども。
0 件のコメント:
コメントを投稿