テレサ・テンの『淡淡幽情』のラスト・ソングは離ればなれに暮らさねばならない者の恋歌。
今で云う単身赴任者の詞であるけれども、テレサのこの詞への想いは中国への返還間近であった香港社会の気持ちを代弁したものだろう。
数年後、天安門事件が起き、その抗議集会にも積極的に参加したテレサは抗日運動の歌として歌われた「何日君再来」をトウ・ショウヘイ(鄧小平)政権に宛てて、歌いもした。
極東という限られた世界から国際社会へ羽ばたこうと、パリに居住を移した彼女の心境はいつも「思君」であったという。
厳格な規律ある唐詩を大衆向けに崩していった宋詞を中心に作られた『淡淡幽情』の続編を作る願いも叶わずに、テレサ・テンは1995年5月8日、タイ・チェンマイで気管支喘息による発作のため死去する。
中国の古典詞に魅了された彼女は「星願」という詞を遺稿として残している。
「往事不堪思, 世事難預料(過去を思うと堪えがたく、この世の事を予感するのは難しい)」
我住長江頭,君住長江尾。
日日思君不見君 ,共飲長江水。此水幾時休?此恨何時已?
只願君心似我心,定不負、相思意。
私は長江の河上に住み、
君は長江の河下に住む。
毎日、君を思い浮かべてみても、君に逢う事は出来ない。
共に、長江の水を飲んでいるというのに。
この水はいつの時にか休すむのか?
この辛さはいつの時にか終わるのか?
ただ、願うのは君の心が私の心と同じく、
背くことなく、慕いあい続けて欲しい。
0 件のコメント:
コメントを投稿