2009-03-21

ひとりぼっちになりたくないから嘘をつく He tells a lie because he doesn't want to become solitary.

メーテルリンクの「青い鳥」の結末はびっくりするほど身近にいた青い鳥が鳥かごから抜け出し、飛び立ってしまい、チルチルとミチルのそばには空っぽの鳥かごが残るというもの。その物語をタイトルにした連作短編集「青い鳥」は、いじめ、自殺、学級崩壊、児童虐待、様々な場面の子供たちのそばにいてあげる村内先生を子供の側から描いた八つのお話。

「みんながみんな、みんなのかな?それぞれ違うんじゃないか?」
(拝啓ねずみ大王さま)

「たいせつなことと、正しいことって、違うんですか?」
(進路は北へ)

画一化されまいとあがく子供たちはひとりぼっちになりたくないから嘘をつき、自分を傷つけていく。

最後の話、「カッコウの卵」はカッコウの卵のように産み棄てられ、大人になり、一緒に暮らすようになった恋人の話。

産まれてこなければよかったのにと罵声を浴び、育ったふたりは施設で出逢い、駆け落ちする。

男の方は一時、施設から再婚した父親に引き取られ、中学に通うけれども、継母になじられ、父親から折檻を受けるけれども、学校ではその境遇を知られまいと虚栄を張り、嘘をつき続けた過去がある。

その時、そばにいてくれた村内先生を街中で見かけ、俺もこんな所帯を持ってやっていると知って貰いたくて、先生の通う学校を探し回る。

やっと逢えた時、工場作業着姿の男は不審人物として、その学校の先生に尋問を受ける。

「ひとりぼっちになりたくないから嘘をつくんです。嘘は、悪い事じゃなくて、寂しい事なんですよ。」

村内先生はただそばにいて、話を聴いてくれた。男は彼を恩師と呼ぶ。

「あのなぁ、人間はなぁ、大人になる前に、下の名前で、たっ、たくさん呼ばれなきゃいけないんだ。下の名前で呼んでくれるひとが、そばにいなきゃいけないんだ。」

再会した時、男は虚栄も何もかも棄てて、幼子になったように泣きじゃくる。

「間に合ってよかった。」

村内先生の口癖は「助ける」でも、「救う」でもなく、「間に合ってよかった。」

この作品集の子供たちはそれぞれそばにいてくれた人を思い返し、大人になるのだろう。

村内先生の更なるお話を読みたくて、作家、重松清さんの本を物色し始める「僕の青い鳥」。

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