いつだったか、今のヨーロッパの事情を伝える記事を読んだ。
社会主義の崩壊とともに暮らしを求める東欧の難民たちが西欧や北欧に押し寄せ、労働ピザを不法に入手し、それを地元産業が低賃金で雇えるからと雇い入れ、その国の底辺を支えてきた労働者の働き口も奪い取り、西欧の労働者はカナダへ労働移民として流れて行っている。
ベルギーのダルデンヌ兄弟の監督による新作『ロルナの祈り』はアルバニアからベルギーにやってきた女性の物語。偽りの結婚で麻薬中毒の「夫」と暮らし、ベルギー国籍を手に入れたものの、「夫」には云えない秘密があった。
偽りに満ちた生活は次第に彼女の感情さえも束縛し、偽りの人生を生きる事を強要していく。
社会の底辺に生きる人間たちは、ある者は麻薬から立ち直ろうとしても途切れぬ誘惑に惑わされ、ある者は不法入国の手引きで生き延びようとし、ある者は危険な核廃棄作業の仕事がある他の国に出稼ぎに行く。
互いが互いの骨の髄までしゃぶりつく姿はグローバル化する事により更なる低コストのワーキング・プアを生み出す社会の縮図であろう。
そんな中での「ロルナの祈り」とは、人間でいたいという叫びでもあるだろう。
少子高齢が進む日本は経団連が労働移民の受け入れを望んでいるようだけれども、国の方が未だに難色を示し、労働ピザの緩和策はとられていないと聞くけれども、労働の低コスト化、人員の減少により、不法なものも増えているらしい。
ダルデンヌ兄弟作品には珍しく音楽が多用され、ベートーヴェン生涯最後のピアノ・ソナタがラストのエンドロールに流れ続ける。今の世界に対して祈りを捧げるように。
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