アメリカ、ニューオリンズ。巨大ハリケーン・カトリーナの襲来を受け、水没した警察署で牢獄の中で逃げ遅れ、助けを求める囚人が溺れ死ぬのを眺めている警察官二人。その一人が何を思ったのか、服を脱ぎ、その囚人を助け出し、飛びこむ時に打ち所が悪かったのか、生涯鎮痛剤に頼らなければならない生活になるが、この功績が認められ、表彰され、警察の位が一ランク上がる。
酒とドラッグと暴力にまみれた男を描いたアベル・フェラーラ監督、ハーヴェイ・カイテル主演で1992年に製作された「バッド・ルーテナント/刑事とドラッグとキリスト」を、人間の原風景にこだわり続けるドイツ出身の鬼才ヴェルナー・ヘルツォーク監督がニコラス・ケイジ主演でリメイクしたフィルム・ノワール。
ダーティなこの男を追う映像で、ワニが道路を這い、イグアナが一緒に外を眺め、犬が引っ張り回され、その度にカメラは動物たちの目線で人々を写す。
動物のような人間と人間のような動物。自然災害がニューオリンズの野性をされけ出したかのように、ダーティに生きることが当たり前のようになった世界で、人は酒を飲み、ドラッグにラリって、人を玩び、自分の名誉を積み重ねていく。
鬼才ヴェルナー・ヘルツォーク監督のシュールな世界観は未だ健全であることに嬉しくなってくる。
溺れた者と助けた者が水族館の巨大水槽の前、座り込むラストは「人間皆同じ」と云わんばかりに、ニューオリンズのにぎやかな音楽が被さってくる。
養老院の老婆の酸素吸入器を外し脅す男の狂気は痴呆ゆえに立証されず、アメリカ奴隷史のルースの土地に呪縛する人間の野性は金と名誉とハイテクの世の中、観て見ぬふりとモラル至上主義という最もなじみ深いものになる。
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