「身近な人を傷つけるより、自殺した方がいい」と自殺幇助の相手を捜す男を描いた1997年のロードムービーを再び見た。
自殺が許される事のない大罪であるイランでは自殺も自殺幇助も考えてはいけない話。
休暇を貰ったクルド人の兵士、採掘作業をするアフガン人、自殺幇助の相手捜しは自ずと社会的に弱い立場の者に向かう。
延々と続く紅いイランの大地を死にたい男の旅は続く。
「止めしないが、桜桃の味を忘れたか」
男にトルコ人の老人が語る説教は「生きていればいい事がある」などという戯れ言。
その戯れ言を信じる事が生きる事。
この作品の前、イラン北部の子供達を描いた『ホームワーク』『友だちのうちはどこ?』を撮り、その舞台になった地が激震に襲われた事を聴き、『友だちのうちはどこ?』の主役の子の安否を調べる『そして人生はつづく』を撮ったアッバス・キアロスタミ監督はドキュメントともドラマともつかない空間をここでも作り上げ、「死ぬ意味」を問う事で「生きる意味」を問う。
『クローズ・アップ』で罪を裁く裁判を通し、裁くだけでは罪は消えず、如何に許すかが大切とも説いたアッバス・キアロスタミ監督は不寛容になっていく社会もまた、自然の中にあると描く。
大地は穴を掘り、横たわる男の永遠なる安眠はいつ得られるのか。
「桜桃の味を忘れたか」
「あの美しい夕焼けを、もう一度見たくはないのか」
生きる事を忘れたお化け社会は世紀をまたいだ今、更なる不寛容に向かっているように思う。
- OhmyNews : 「桜桃の味を忘れたか」
- アッバス・キアロスタミ監督
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