2007-05-29

侏儒の言葉 ShuJu no Kotoba

芥川龍之介 侏儒の言葉より

あらゆる神の属性中、最も神の為に同情するのは神には自殺の出来ないことである。

我我は神を罵殺する無数の理由を発見している。が、不幸にも日本人は罵殺するのに価いするほど、全能の神を信じていない。

人生

人生は一箱のマッチに似ている。重大に扱うのは莫迦莫迦しい。重大に扱わなければ危険である。

人生は落丁の多い書物に似ている。一部を成すとは称し難い。しかし兎(と)に角(かく)一部を成している。

強弱

強者とは敵を恐れぬ代りに友人を恐れるものである。一撃に敵を打ち倒すことには何の痛痒(つうよう)も感じない代りに、知(し)らず識(し)らず友人を傷つけることには児女に似た恐怖を感ずるものである。

弱者とは友人を恐れぬ代りに、敵を恐れるものである。この故に又至る処に架空の敵ばかり発見するものである。

世間智

消火は放火ほど容易ではない。

自殺

自殺に対するモンテェエヌの弁護は幾多の真理を含んでいる。自殺しないものはしないのではない。自殺することの出来ないのである。

死にたければいつでも死ねるからね。
ではためしにやって見給え。

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