今年のキネマ旬報のベスト10の発表を知り、そのリストを見ていて、80代半ばのシドニー・ルメットの新作がノミネートされているのに、驚き、札幌市内の映画館で今も上映されている事を知り、取りも直さず、観に出かけた。
欲望のためならなんでもする兄が、弟に、両親の経営する宝石店を襲う企てを持ちかける。
アメリカの中流家庭の家族崩壊を「その土曜日、7時58分」を機軸として、そこに至るそれぞれの心理行動とそこから始まる崩壊劇が、名匠シドニー・ルメットの手腕で描き出されていく。
「携帯は身体に悪いから持たない」と言い放つ兄は「ブラジルは犯人引き渡しの条約を結んでいないから安全」とも語る根っからの悪であり、気弱な弟を巧みに威圧していく。父は自分とよく似た兄を好まず、弟を可愛がっている。
『十二人の怒れる男』や『狼たちの午後』など個人個人の人間模様から政治的な問題を浮き上がらせる事を得意としたシドニー・ルメットは、ここでも犯罪劇を通し、犯罪の奥底にある互いの憎悪と孤独を浮き上がらせる。
2000年代に入ってもなお、何本か、映画を作っているのは映画データベースサイトIMDbのシドニー・ルメットのページで確認していたけれど、何故か日本では公開されなかっただけに社会派サスペンスの巨匠の健在ぶりを知る一本の公開を素直に喜びたい。
原題「Before the Devil Knows You're Dead」(悪魔があなたの死を知る前に)
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