戦前日本の名作映画で、日本で最初のトーキー(発声)映画『マダムと女房』と同じく五所平之助監督の『人生のお荷物』を観る。
『マダムと女房』は音へのこだわりの映画で、近所の雑音に悩まされるとある小説家のお話。
雑音のせいで執筆に集中できないでいる作家先生にかまってくれないとわざと騒音を立てる女房殿。更には隣からジャズのレコードが鳴り響き、怒鳴り込みに行くとそこの洋風マダムの誘惑が待ちかまえ。スラップスティック・コメディながら周囲にかき乱される作家先生の心うちが面白い。
『人生のお荷物』は三姉妹に末の男の子を抱えるサラリーマン家庭、夫は初老を迎え、遅くに作った男の子を「失敗作」と嘆く。奥さんがそんな事を云うものではないといっても夫はガンとして聞き入れず、末っ子の悪口を言い並べ、終いにはかばう奥さんをも三行半で離縁してしまう。
気ままな一人暮らしになった夫は末っ子と同じ年頃の子供が飲み屋で花を売っているのを見て、末っ子の事を改めて考えてみる。
宮本武蔵ならずとも、日本の道徳観念は「人のふり見て我がふり直せ」の謙虚さが主流であったはずなのに、読売新聞の世論調査で「マナー悪化、道徳教育強化に92%賛成」との結果が出たとか。
「人が悪い」の大合唱は「自分さえよければ」になってはしないか。
先日の鳩山邦夫法相が死刑制度について「凶悪犯罪の未然防止に果たす役割は大きい。死刑を科すと裁判所が判断すれば、わたしは重んじる」と語った語り口には死刑執行しなきゃならない社会は治安悪化の証という自覚のなさが感じられたけど、現代人は『人生のお荷物』を忘れているのだろう。
更なる少子高齢社会となる今後、増加しつつある爺婆の押しのけ合いが激化するのではないだろうか?
- OhmyNews : 「人のふり見て我がふり直せ」を忘れた日本人