2007-12-30

あ・うん a-hun

飛行機事故で亡くなった向田邦子が10年のライフワークとして、取り組み始め、志し半ばで絶筆したドラマ「あ・うん」。このNHKドラマも何故かDVD化されていない。

やはりレンタルで、「あ・うん」「続あ・うん」を借りてきて、観ている。

「狛犬さん、あ・うん。」で知られる物言わなくとも互いの心が通じ合い、魔物を内に入れない形相は仏門の仁王さまにも描かれるもので、インドのサンスクリット語の最初の音である「あ」と口を開いた阿形(あぎょう)と最後の音である「うん」と口を閉じる吽形(うんぎょう)が一対として、平穏を守るとされる逸話からこの物語は成り立っている。

時代は戦争前の日本。サラリーマンの夫婦とそこへ足繁く通う友人とが、その奥さんを巡るプラトニックな三角関係が弥次郎兵衛のような具合で均衡保たれ、それぞれ狛犬さんのように奥さんを守っている。

軍需景気で羽振りのよい友人は女癖が悪いけど、奥さんの前では従順な下僕であり、旦那さんもまた、その気持ちを知りつつも、素知らぬふりで、亭主気取りで友人をもてなす。

疑いを口にすれば、何もかも壊れる事を知っているから、互いに気持ちを口にせず、だからこそ保たれる平穏な家庭。

作家・向田邦子がこだわり続けた「幸福」の形を最も端的に示したこのドラマは話が進むに連れ、戦火の足音が小市民の家庭にも迫ってくる。

「阿修羅の如く」「冬の運動会」など幸福と争いの背中合わせで、これ以上口にすると何もかも壊れてしまう事を判っている人間達がそこで自制し合う「幸福」論は、今の世の中、思い返すべき事なのかも知れない。

  • OhmyNews : 映画特集 『あ・うん』 云わぬが花の幸福論

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